LIFE IN SHINSHU
WITH
SOLAR ENERGY
電気を“買う”から、
“つくる”信州へ。
屋根ソーラーで変える
地域の暮らしと地球の未来

令和元年東日本台風の教訓から始まった長野県の挑戦。電気を“買う”時代から、“つくる”時代へ。屋根ソーラーを軸に、家庭も地域も強くするゼロカーボン戦略の現在地を、阿部守一長野県知事に伺いました。目指すは「2050ゼロカーボン」。持続可能な信州への道筋を探ります。

台風19号の教訓 ——
なぜ、いま再エネを急ぐのか

—— はじめに、なぜ長野県は再生可能エネルギー(再エネ)を強く推進しているのか。その理由をお聞かせください。

長野県知事・阿部守一さん(以下、阿部知事) 私は以前から、気候変動問題は、地域にとっても人類にとっても極めて深刻な危機だと認識し、地球温暖化対策に取り組んできました。かつて横浜市副市長として「TICA D4(アフリカ開発会議)」に参加した際、ノーベル平和賞受賞者のワンガリ・マータイさんが語った「カーボン・ジャスティス」*の言葉は、いまも強く心に残っています。
さらに、令和元年東日本台風(台風19号)では、千曲川の堤防決壊をはじめ、県内各地で甚大な被害が生じ、多くの命と暮らしが脅かされました。このような災害が今後ますます多発・激甚化するおそれがある中で、「何とかしてそのリスクを下げなければ」という強い危機感から、長野県は都道府県として初めて「気候非常事態宣言」を行い、再エネの普及拡大に向けて、本格的に舵を切りました。
再エネの推進は、温室効果ガスの削減だけではなく、海外からの化石燃料への依存を減らしてエネルギー安全保障を高め、エネルギー価格や物価高騰への備えにもなります。また、停電などの際にも自ら電気を賄えるようにすることで、災害に強い地域づくりにも貢献します。
電気を買うだけの地域から、自らつくり、ためて、つかう地域へ——。その実現のために、高い数値目標を掲げて再エネの導入を強力に後押ししているのです。
注*:カーボン・ジャスティス/炭素正義。温暖化の影響をもっとも受ける人たちに、これ以上しわ寄せをしてはならない、というメッセージ。

大阪から安曇野に移住したMさんご夫妻の住まい。モノトーンのスッキリとしたフォルムが印象的な建物は、県内のビルダー・BlackPepperが手がけた。三角の切妻屋根には5.5kWの大容量ソーラーパネルを搭載している。

北海道仕様の断熱性能を標準としているため、室内は季節を通してエアコン1、2台で十分快適だそう。デッキテラスでコーヒーを飲んだり、BBQをしたり、夜は寝転んで星を眺めたり。念願の薪ストーブも導入し、信州暮らしを満喫中。

エネルギー消費7割減・再エネ3倍へ。
2050ゼロカーボンの設計図

—— 長野県としてのビジョンや具体的な目標について教えてください。

阿部知事 長野県では、国の「2050年カーボンニュートラル」に先駆けて「2050ゼロカーボン」を掲げ、その実行計画として「ゼロカーボン戦略」を推進しています。
この戦略では、2050年までに2010年比で
・最終エネルギー消費量を7割削減すること
・再エネの生産量を3倍以上に拡大すること
により、化石燃料に頼ることなく、温室効果ガス排出量を実質ゼロにする、という目標を掲げています。
残念ながら、現時点では目標の達成は難しい状況ですが、だからといってここで諦めてしまえば、環境がさらに悪化し、もっと悲惨な地球を次世代に残すことになりかねません。この目標を堅持し、知恵を出し合いながら、実現に近づけていきたいと考えています。
電力のムダ使いを減らし、賢く省エネしながら、再エネへの転換を加速させていくことで、安定的で持続可能なエネルギーの供給体制をつくっていく——。脱炭素と地域経済を両立させる「持続可能な信州」の実現に向けて着実に前へ進めていきます。

屋根ソーラーへの入り口
「つなぐ信州屋根ソーラー」

—— 屋根ソーラー普及への取り組みについて教えてください。

阿部知事 屋根ソーラー(太陽光発電システム)を導入する最大のメリットは、毎日使う電気代を抑えられることです。自宅で発電した電気を自家消費することで、エネルギー価格の変動リスクを小さくできますし、蓄電池やV2H(EVのバッテリーを家で蓄電池として使う仕組み)を組み合わせれば、停電時にも安心です。こうした観点から長野県では、屋根ソーラー導入の入り口として、ポータルサイト「つなぐ信州屋根ソーラー」を開設し、運用しています。
このサイトでは、屋根ソーラーの基礎知識や導入までの流れ、補助制度などさまざまな情報をご紹介しています。なかでも、「自宅の屋根がどれくらい発電できるか」を試算できる「信州屋根ソーラーポテンシャルマップ」*は、「簡単で、わかりやすい」と県民の皆さまからご好評をいただいています。このように検討段階から導入後までをワンストップで支援できる体制を整えていますので、まずは気軽にアクセスしていただきたいなと思います。
注*:「信州屋根ソーラーポテンシャルマップ」はこちら

深い森の中に静かに佇む住まいは、移ろう季節を日々五感で味わわせてくれる。
屋根ソーラーが生み出すクリーンなエネルギーは、暮らしを支えるだけでなく、森のいのちを守り、未来の世代へと受け渡していく。

地域と地球の未来のために。
“発電する家”を標準に

—— 最後に、今後の展望と、新築住宅を検討される方へのメッセージをお願いします。

阿部知事 長野県は、2030年に県内住宅の3割の約22万件、2050年には約50万件まで、屋根ソーラーの導入拡大を目指しています。普及は着実に進んでおり、2010年には約6万件だったものが、2025年3月時点では約10・5万件に達しました。しかし、私たちの掲げる目標値はとても高く、そこへ到達するには、まだまだ工夫と努力が必要です。
一方で、いまは物価高騰の影響もあり、多くの方の関心が「日々の暮らしをどう守るか」に向いているように思います。しかし実は、再エネと省エネの活用・推進は、そのまま生活費の削減にも直結します。
確かに、屋根ソーラーの設置には初期費用がかかります。そこで県では、「つなぐ信州ゼロ円ソーラー」のように、初期投資なしで導入できる仕組みも整えています。こうした制度も上手にご活用いただければと思います。
住宅の断熱性能を高めてエネルギーのムダを減らす、照明をLEDに切り替える——。そうした一つひとつの選択が、脱炭素を進めながら家計の支出を抑えることにつながります。ただし、電気代を気にしすぎて熱中症になっては本末転倒ですので、健康への配慮を最優先にしつつ、ご家庭内でも話し合いながら、無理のない範囲で再エネ、省エネに取り組んでいただければと思います。

これから家づくりを考える皆さまには、屋根ソーラーを家の「標準装備」の1つとして検討していただけるとありがたいです。自宅に屋根ソーラーを載せるということは、自分自身が「エネルギーの消費者であり、生産者にもなる」ということです。
経済状況や国際情勢の変化によってエネルギーコストや物価がさらに高騰する局面がきても、自宅の屋根で安定的にエネルギーを生み出せれば、日々の暮らしはもちろん、地域全体の安心にもつながります。
“エネルギーを生み出す住まい”という選択が、地域と地球の未来をつくります。そうした視点を共有しながら、県民の皆さまとともに、持続可能な信州を築いていきたいと考えています。

取材協力・設計・施工/
株式会社BlackPepper

・株式会社BlackPepperサイト  
https://www.black-pepper.jp

記事本文、写真等は「住まいnet信州」
Vol.46より転載しています。

・住まいnet信州サイト  
https://www.sumainet-shinshu.jp