信州大学人文学部 茅野 恒秀 准教授
2014年より現職。
<現在の研究テーマ>
社会学に立脚した環境問題を中心とする社会問題の解明と解決過程に関する実証研究。
私たちの世界は今、これだけ便利になり電力やエネルギーを使えるようになっていますが、もとを正すと18世紀に世界で起こった産業革命に端を発して、数百年かけて豊かな世界をつくってきたものです。
石炭などの化石燃料を燃やして、動力を生み出す蒸気機関がエネルギー革命の起点となりました。しかし、化石燃料が燃焼することによって二酸化炭素(CO2)が排出されます。このCO2が温室効果をもたらして、気候変動、具体的には地球の温暖化をもたらしています。
本来、地球には海や陸上の生態系がCO2を吸収してくれる能力が備わっています。それに対して、私たちが出すCO2が増えた結果、自然が吸収できる範囲内に収まっていません。
化石燃料をたくさん燃やす、森林を伐採して農地に変える、農地や緑地をコンクリートで覆って都市にするなど、化石燃料の消費と土地利用の変化によって、地球の本来持っている生態系の中で吸収できる能力以上のCO2が、私たちの生活経済の中で生み出されているわけです。
2020年の記録によると、長野市の測候所では1.3度、飯田市1.4度、松本市では2.0度と、平均気温が百数十年前と比べて上がっているというデータが得られています。19世紀末(1890年代~1900年)から今までのおよそ125年間の間に、地球の平均気温が1.2度上昇しています。平均気温の1.2度というのは、夏の暑さでいうと30度の暑さが31.2度になるという話ではありません。秋や春の過ごしやすい時期の気温も含めての平均気温です。
かつては信州であれば、夏の暑さが30度を超えると暑いという感じでしたが、最近は日によって35度を超えることに加え、冬が寒くならないということも地球温暖化の影響、気候変動の影響と言えます。冬が寒くならないことで雪の量が減り、雪が降らなくなるとその一年間川を流れてくる雪解け水が減ってくるため、水を頼りにしている生き物や農業にも影響が出てきます。
長野県は全国でも有数の森林面積を誇っている県。面積も全国47都道府県では4番目に大きい県です。長野県の森林が吸収するCO2の量が現在およそ180万t。長野県では、それを2050年までに森林整備をして200万tまで増やしていこう、という計画を立てています。長野県が目指す200万tというCO2の吸収量が、どのくらいに相当するのかひも解いていきましょう。
現在松本市の人口が23万~24万人で、松本市民が出しているCO2の排出量は、毎年およそ160万tから180万tで推移をしています。これは長野県全域の森林で吸収しているCO2の量が、長野県内のごく一部である松本市民や松本市内の企業が出しているCO2の量に相当します。つまり長野県の森林だけでは、私たちのCO2排出量というのは到底吸収できないということになります。
地球が本来持っている生態系のメカニズムの中に、私たちのCO2排出量を収めていこうという考え方からすれば、私たちがエネルギー利用の効率化や再生可能エネルギーへの転換を図り、暮らしや経済活動の中でCO2を出さないライフスタイル・ビジネススタイルに変化させていく必要があるのです。
主な再生可能エネルギーとして、太陽光発電・風力発電・地熱発電・水力発電、また木質資源や農業資源を使ったバイオマス燃料があります。
長野県の特に電力について、最も適しているのは太陽光発電です。世界的にコストが安くなり導入しやすくなっているとともに、長野県は全国でも晴天率が高い県として知られているからです。
実際に長野県は全国平均のおよそ1.15倍発電するということで、全国1位は山梨県で、僅差で長野県が2位というランクを持っています。長野県は山あいのため居住可能地域は多くないという特性があるので、まず私たちができるのは、今すでにある建物、またはすでに開発済みの土地を有効活用することです。今ある建物の屋根に太陽光パネルが載せられずにただ単純に太陽の熱で温められていく、こういった状況があるのであれば、そこに太陽光パネルを敷いて少しでもエネルギーの自給自足を進めていくというのが効果的だと考えます。
太陽光発電など再生可能エネルギーのもう一つの利点は、エネルギーの地産地消であることです。つまり身近な暮らしの近くでエネルギーをつくり、それを私たちが使うことができることと言えます。地球温暖化の原因とされる化石燃料はほとんど日本に存在せず、石炭や石油・天然ガスを外国から輸入してきています。輸入して運ぶ際にもたくさんの燃料を使い、気候変動の原因となるCO2を多く排出しています。こういった実態に対して、再生可能エネルギーというのは身近な生活圏の中でエネルギーを手に入れて地産地消できるという点は、農産物の地産地消と同じように利点であるのです。
太陽光発電は現在世界でいちばん導入しやすいエネルギー源です。理由として、世界で多く作られているため、かつて10年前20年前と比べるとパネルの素材のコストは5分の1、10分の1といった価格帯になってきています。今後太陽光発電パネルが沢山作られることにより、コストがどんどん下がっていくということ。まさに社会インフラとして、誰もが当たり前にアクセスすることができる発電方法として注目されています。建物の屋根に太陽光発電をつけるのは実はメリットだらけなのです。
すでに開発してある土地、その上に立っている建物、その建物はおそらく今後何十年もあると思うので、その屋根を有効活用することができます。もう一つは最近電気代が高くなってきている一方、太陽光発電の設置コストが安くなっているので、発電した電気をその建物の中で自給自足するほうがお得になってきています。
厳しい現実として、2050年にゼロカーボンを達成しても地球の温暖化はしばらく続いていくとされます。今この時点で私たちがゼロカーボンに取り組むようになり、2050年にゼロカーボンを達成することになれば、世界の平均気温は1900年ごろからの上昇幅1.5度に抑えられると予測されています。ところが対策をせずにこのまま生活を続けていくと、その平均気温は3~4度まで上昇していくことが確実だということが予測されています。
これからゼロカーボンの対策がうまく進まずに長野県の気候がどんどん温暖化していった場合には、こんな影響があげられます。一つ目は、長野県という地域の特徴の一つである山では、氷河が溶けてしまうなどアルプスの魅力が失われていく可能性があるということです。また、3000mを超える高山帯にしか生息しない「ライチョウ」という長野県を代表する生き物が、例えば雪が少なくなることで、より低いところに生息していた生き物が3000mの高山まで登ってこられるようになり、ライチョウが外敵に襲われるなど、生息環境が変わっていってしまうのではないでしょうか。現在も絶滅が危惧されているライチョウが暮らしていけなくなる可能性があるのです。
あてはまるものを選ぶだワン!